まちがいさがし
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短編小説「まちがいさがし」
卒業してすぐに社会人となったサヤカ
自分の性に合っている
接客の仕事に就く事ができた
日々の仕事は大変だけれど
それ自体好きなことなので
大して苦労だと思ったことはない
同僚にも上司にも恵まれ
出勤することが楽しい毎日だった
片道5㎞ほどの通勤路を
ロード系自転車で通うことも
イケてる女子的だと疑わず
未来は明るい希望に満ちていた
たいして高額な給与でもないけれど
自分で自由になるお金ができたこと
念願だった一人暮らし
趣味も徐々に増えていき
活動の場を広げていった
社会人になって
2年が過ぎようとしていた
ある日のこと
街で素敵なオートバイを見掛けた
それはサーキットから
飛び出してきた様な
レーシーなスタイルとあいまって
スラっとした長い脚に
背中までのびる髪
妖艶で大人の佇まいの女性が
乗っているバイクだった
その瞬間
サヤカの中で何かが弾けた
全身に得体のしれない衝撃が走り
『カッコイイ・・』と
只々そう思ったのだった
それからというもの
通勤の道中でも
カフェの窓越しからでも
オートバイという乗りものに
興味を持ち目で追ってしまう
色々調べてみると
様々なタイプがある事を知る
『私にも乗れるだろうーか?』
乗るならレーシーで低く構える
スーパースポーツがイイと思った
生まれつき行動的な性分のサヤカは
二輪の運転免許を取りに行くまでに
そう大して時間を必要としなかった
中型免許で乗れる最大排気量車
HONDA CBR400Rを手にした
これは免許を取る前から
心に決め色も赤と決めていた
あの日街で見掛けた
あのライダーになれたと
サヤカは思った・・
晴れた休日はできるだけバイクに乗り
カーブの多い山道へも
積極的に走りに行った
雲行きが怪しい日は
近所で撮影会をしたり
バイク磨きやカスタムをして
増々夢中になっていった
今までもそうであったように
興味を持った事にのめり込み
いつしか生活の中心になっていた
そんなある日
バイク乗りには有名なルートへ
ひとりで走りに行った時のこと
その途中にある「道の駅」で
うっかりバイクを倒してしまった
一瞬の出来事だったが
サヤカにはゆっくり傾いていき
哀れに横たわってしまうまで
随分長く感じられたが
大切な愛車をどうする事も出来ず
ただ見ている事しかできずにいた
運よく数人のライダーグループが
慌てて駆け寄ってきて
愛車を引き起こしてくれた
ガソリンのにおいが立ちこめ
ピカピカのマシンの傷を見詰め
お礼も出来ずに立ち尽くしていた
覚悟はしていたものの
実際に立ちごけをしてみると
さすがにショックは大きい
楽しかった気分が
一気に冷めていき
怖いような
情けない様な
複雑な感覚を初めて感じた
男性陣は優しく怪我を心配してくれた
それ自体は嬉しかったけれど
動揺からなのか
身体の震えが止まらなくなっていた
それを察したのだろうか?!
『一緒に帰ろーか?』
と有難いお誘いを受ける
心から嬉しかった
今まではそんな風に
思った事が無かったけれど
グループで走る事の安心感
それを知ることとなる
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自宅近くのコンビニにバイクを入れ
お礼とお別れを告げる
5台で帰っていたはずが
すでに2台はお別れをしたのか
男性達は2名になっていた
皆さん全員に
しっかり言えてなかった
先程のお礼を言いたかったけれど
少し残念に思う気持ちと裏腹に
CBR600RRに乗る彼は居た
長身で整った顔つき
口数が少なく
控え目な感じの男のことが
サヤカは気になりはじめていた
その彼と
連絡を取り合うようになり
一緒に走る楽しさを覚え
同時に腕も上げていった
バイクSHOPでの買い物では
様々な知識を増やす事ができた
それから食事をする間柄になり
お酒を飲むようにもなった
そんな頃だった
彼に女性の影を感じた
彼女ではないようだけれど
モテるのは確かの様だ
友達以上
恋人未満
その事が少しづつだけど
歯がゆく思うのであった
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梅雨が明け
今年の夏は一気にやってきた
彼との距離も縮まってきた頃
キャンプツーリングのお誘いがあった
道具を持っていなかったサヤカは
一瞬だけ戸惑ってみたが
心の中では『行くぅーー!!』と
叫びたいほど嬉しかった
もしも私が犬だったなら
尻尾をグルグル回していたでしょう
仕事帰りに待合せた
何度か来た事のある居酒屋の席
キャンプツーのこと
予定ルートの話をしながらのお酒は
例えようのないほど愉しく
充実した時間になった
女子高に通ってたこともあり
それは生まれて初めての経験で
異性と過ごす時間は特別に思えた
部屋でひとり冷静になり
これが恋なんだと自覚した
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バンガローエリアは
広い高原の木の点在する場所に建ち
小さいながらログハウスは快適で
木製のテラスとコンクリートの焼台
材料だけあれば不自由しない
そして生まれて初めて経験する
異性とのお泊りに頬が火照る
けれど
目の前にはオートバイ
そしてキャンプという開放感から
不思議にも緊張感はなかった
園内の散策を終え
夕食の準備に取り掛かると
料理上手な彼の一面を知り
ちょっと雑な切り方も
ちょっぴり濃い味付けも
2人で料理を作る時間が
この上なく楽しいと思えた
ここまで来る道での
出会ったバイクの事
ピースサインのこと
食事中の話題は尽きなかったが
ある程度の片づけを済ませて
簡単なおつまみだけで
第二部をはじめる
そして初めて洋酒を口にした
先ほどまで賑やかだった
テントサイトからの笑い声も
今は気にならない程
静かに落ち着き払っている
陽が落ち
静かにユラユラ燃える
焚き火の炎
彼の過去の話に微笑みながら
ゆっくり
そして満ち足りた時の中で
呑む濃い目の洋酒
喉を通り過ぎる度に
彼の事が好きになってゆく
今のすべてが夢のようで
この上なく幸福な時間に満ちていた
一夜を共にして
何度も抱きあい
ふたりは恋人となった
キャンプツーリングから戻り
間もなくふたりは
同棲をはじめるようになった
この愛に終わりが来ることなど
まったく考えたくなかったし
彼に嫌われることは避け
可能な限りの愛で尽くした
友人ですら
「尽くし過ぎる」と言うほどに
そして
彼の事は誰にも渡したくない・・と
それだけがサヤカの
一番真ん中の部分となった
出会ってから5年目の年
2人は籍を入れた
すでに生活を共にしてはいたが
一緒にする趣味が増えていき
充実した結婚生活だった
更に2年が過ぎた頃
彼の何気ないコトバと態度に
私への愛が無いと感じた
もう一度私を見て欲しいと願い
嫌われたくない一心で接した
けれど
すでに彼の心は
サヤカに向いていない
その事実を突きつけられ
関係を取り戻せぬまま
この結婚生活は幕を閉じた
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独りになり
うまくいかなかった理由を
毎日毎日考えてみる
彼に対する愛情が
足りていない事が原因だと
自分を責める時間が増えた
彼との恋が終わったといえ
それまで共にした趣味は
サヤカの大切な部分となっていた
別れてからも彼とは関係なく
キャンプも山登りも続けた
ただオートバイだけは
一人気軽にのんびりと走れる
原二バイクに入替えを行った
その相棒と走る時だけは
無心になれる
唯一無二の大切な時間だった
空っぽになったままの
心の真ん中を埋めようと
自らも告白する事もあったけれど
職場でもサークル内でも
人気者のサヤカに
声を掛けてくる男は多かったが
恋が始まっては終わる・・
どうしてなのか?長続きしない
相手のしたいように合わせ
いっそう男に尽くすよう努力するも
やっぱり長続きしない
そんな事を繰り返していた
いつしか周りからは
言われも無い陰口や
蔑んだ様な視線が向けられている?
そんな風に感じた
気のせいかも知れないけれど・・
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区切りの誕生日を前に
ただ漠然と
日本海に沈む夕陽が見たい
そう思った
太平洋側に住むサヤカの家からは
かなりの距離があるにも関わらず
自分ではそんなに
驚くほどのものではない!
そんな気がしていた
休日と有給休暇を絡ませて
1週間ほどの連休を作った
出発する何日も前から
入念にルート計画を考え
不安な気持ちが払拭できるまで
何度も何度も見直した
初めてのロングツーリング
初めてのソロツーだけど
不思議と不安な気持ちはなく
期待とワクワク感が勝り
その時を待っていた
出発の朝
興奮した神経細胞は
起きたその時から高揚し
給油以外は止まる気もせず
北の方角に向け
ひたすら走り抜けた
気が付けば
まともな食事もとらず
今宵の宿を目指していた
今回は自分の直感を信じ
ライダーの為の宿
ライダーハウスを選択した
果たして良かったのか?
どうなのか?
結果はどうであれ
そういう事も踏まえ自己完結させる
すべて自己責任の上での計画
決して他人のせいにはしない
その事だけが今回の
大切なルールにしていた
1日目が過ぎ
2日目は宿の事情もあり
急ぐ必要はなかった
目覚めて朝風呂へ向かうと
こんこんと出でる湯は
あまりの熱さで
とても入れる湯加減ではない
加水用の蛇口の下から
桶で湯をすくい
かぶり湯で済ませる
その行為が修行僧の様で可笑しくなった
いよいよ今日は日本海に出る
予定ではお昼頃には
本州の反対側の海が見えるだろう
疲れているはずなのに
気持ちが高ぶっている為なのか
まったく気力は充実している
良く知る太平洋と違い
日本海は風が強い
軽い車体ということもあり
海風で簡単にバイクが煽られる
そびえたつ山
深い渓谷沿いの道
断崖絶壁の海岸線
親不知・子不知を過ぎれば
間もなく富山県に入る
冷静に考えてみると
随分遠くまで走ってきたものだと
自分で自分を褒めたくなった
富山湾をなぞる様に走り
氷見まで来て振り返れば
左に湾曲した青い海と
凛々しくそびえる立山連峰とが
神々しくそこにあり
文字通り
心が浄化されていくような気がした
女一人と原二バイク
今私は冒険をしているのだと
今になって感じ始めている
今宵の宿は海に面した
静かな場所にあるらしく
今日から連泊をして
能登半島をゆっくり周る計画
なので無理をせず
無事に宿まで行く事が今日の目標
予約の時に話しておいた
到着予定時間に無事到着し
旅の相棒をガレージに停めた
ステキな女性オーナーとの会話
美味しい料理にお酒
そして日本海側の夕陽
バイクで走る事ができる海岸
奇妙な岩
海に向かって傾斜する棚田
名も無い漁港
目にするすべてが美しい
そして感動的だった
それらを観るうちに
自分が抱えていた悩みなんて
何ともちっぽけに思えてきた
何より分かったこと
私ってやればできる子なんだと
何の根拠もない
自信のようなものが
芽生えていた
下道1671.4㎞
この数字が凄い事なのか?!
大した事ではないのか?
それはどうでもいいように思う
Instagramのイイネの数も
今はピンとこない
なぜだか分からないけど・・
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旅を無事に終えた事実
それだけは歴然としていて
確実にひとまわり
成長できた実感だけはある
そして
自分自身を客観的にみれる
冷静さも備わった
そんな変化も感じている
恋愛だって
嫌われたくない一心で
尽くし過ぎる事
それはもうやめようと
今はハッキリと思える
自信のもてなかった自分
他人に合わせてばかりの自分
そんな無理ばかりしていた
以前のわたしからの卒業
私が凛としていれば
向こうから寄ってくるモノ
追えば逃げる
恋愛なんてそんなものサ
過去のじぶんの
まちがえを知った
私にはオートバイがある
ひとりで旅もできる
理解しあえる仲間がいる
「あなたなら大丈夫」
そう言ってくれる友もいる
仕事に追われ
バリバリ働くのがカッコイイと思い
そうすることのできる人間が
充実した人生を
おくれるのだと思っていた
確かに
仕事は大切なものだけど
それだけがすべてではない
今では
そう思える気持ちのゆとりと
上手に生きていく上で必要な
コツを知ることができた
そんな気がする
オートバイは危険な乗りもの
いい加減な態度で向き合えば
命が幾つあっても足りない
マシンの性能だけに頼れば
いくらでもスピードは出せる
しかし出さない勇気
それを忘れたとしたら
死ぬ前にバイクを降りた方がイイ
人生も仕事も恋愛も
周りがみれないまま突き進めば
やがて息切れを起す
そしていつか壁にぶつかり
ジ・エンドが待っている
何となく今はそう思える
FIN
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あとがき
「好奇心とコンプレックス」
そのどちらも
人の原動力になるという
好奇心は分かるとして
俺ってダメな男だと思うからこそ
努力して出世してやろうとか
人の出来ない事をやってやろう・・と
そういう事をいっているのでしょう
お金があれば幸せなのか?
何かをやり遂げたから
幸せになるのでしょうか?
私はこう思うんです
今が幸せだから
チャレンジ精神が生まれると
実はその事って案外
気が付かないまま
生活を送っている様に思う
何も起こらない
単純で平凡な生活ができている事が
いかに幸せな事なんだと、、
そして「自分らしくいる」
それができれば最期を迎えた時に
俺の人生は幸せだったなぁーと
幕引きができるのでしょうね
遊ぶことを真剣にやれない人って
仕事もそれなりなんだと、、
私はそんな気がします
モデルのサヤカ(仮名)さんについて
少しお話しをさせていただきます
以前は確か男性といらした様な?
確か結婚されてた様な??でした
そんな彼女がお一人様で
数年ぶりに訪れて頂きました
貸切状態だったので
ゆっくりとお話しをさせて頂く
そんな時間にも恵まれました
その時に
今回の「旅」について感銘を受け
ほとんど想像と推測で描いた
事実とは全く異なる
空想でつくったフィクションです
今回一番最初にサヤカさんに
これを読んで頂きました
大変失礼な描写も
私の勝手な妄想になりますが
彼女は快く許してくれました
そして彼女はこう返してくれました
「自信と冷静さ、自分を客観的に見れるようになった。凛とする事、自然体でいる事、教えてくれたのは相棒のバイクです。バイクに乗るって素晴らしい事ですね! <中略> なんかよくわかんないけど凄く嬉しくて泣けてきました。小林さん、ありがとうございます!!ありがとう!文章にしてくれて。宝物にします」
そして最後に
「今年もう1度ルート66に行けたらなと思います!!その時は、もう少し成長した私と飲んで下さい」
ご予約時に『125で行きます!』と
コメントにあった時は
あ~流行のCUBねぇーと思ってました
それが来てみると
ジスペケの125でした
その時の正直な感想は
『やられたー』でした
少し前にここで125が欲しいと
記事にしたのを覚えてますよね!
そのバイクをセンス良く旅仕様にされ
スマートに乗られる姿は
本当にカッコ良かったです
私は嫉妬にも似た様な感情が
あった事を告白しておきます(笑)
オートバイを通じて人生観を広げ
成長していくライダーさんと
時を同じく居合わせれた
その幸運にも感謝しながら
今回はアダルトチックな表現も
少し取り入れてみました
彼氏と別れたらバイクを降りる
そんな女性ライダーを
私は沢山見てきました
しかし彼女は違った!!
お若いのに信念を持ち
それでいて
他人の話を聞く耳も持ち
嫌味の無い笑顔がステキな
とてもチャーミングな女性でした
これからも時間を工面しながら
もっと旅に出たいと話されてました
私達の様な旅宿を営む者は
でしゃばる事なく
そっとサポートさせて頂く
そんな存在でいたいと願ってます
走り続けるも旅
留まるも旅
何事も臨機応変でいること
そんな余裕が人生にも必要ですよね
豊かな人生と
ステキなバイクライフに乾杯♪